ゲイの水球チームが世界最大のLGBTQ+のスポーツの祭典・ゲイゲームズ出場を目指す、だけど勝ち負けには一切こだわらない…という奇想天外な映画は、監督・脚本を務めた同性愛者であるセドリック・ル・ギャロの実体験から着想を得て誕生した。シャイニー・シュリンプスに所属するまで、ゲイの友人が一人もいなかったという監督は、さまざまな試合に出場するなかで、次第に絆を深めていく。それぞれが悩みを抱えながらも、お互いのありのままを受け入れるメンバーたちに出会えたことは、ル・ギャロ監督にとって人生が変わるほどの経験だったという。
そんな自身の経験を通して、ル・ギャロ監督が本作に込めた思いとは、“たとえ現実が厳しくともユーモアが勝利する”ということ。辛い現実をユーモアで乗り切る彼らの圧倒的な強さと自分らしく人生を謳歌する姿を見せることで、観る者すべてを元気にさせる映画を誕生させた。
主人公のマチアスと実在するシャイニー・シュリンプスの個性的なメンバー8人は、オーディションによって選ばれた。
敏腕キャスティング・ディレクターのコラリー・アメデオの協力により、順調にオーディションが進んでいくなかで、唯一難航したのはフレッド役のキャスティングだった。性別適合手術をしてチームに戻ってくるという役どころにリアリティを求めた2人の監督は諦めずに探し続け、パリの歓楽街ピガールのキャバレー「マダム・アーサー」の踊り子だったロマン・ブローを見つけ出した。
念願叶ってイメージピッタリのキャスト陣を揃えることができたが、水球選手を演じるには全員が立ち泳ぎができないと話にならない。キャストの中にはカナヅチだった者もいたが、事前に3ヶ月のトレーニングを経て撮影に臨み、様になる水球競技ができるほどまでに全員が成長した。トレーニング期間と2ヶ月以上に及ぶ過酷な撮影によって、自然とキャストの絆が深まっていき、みんなで過ごすことを大事にしている実際のシャイニー・シュリンプスのメンバーと同様に、まるで家族のような一体感をごく自然につくりだすことができた。
本作で描かれるのは、誰もが抱える悩みと挑戦の旅だ。フレッドのゴールはダンスの振付を担当することで自分の存在を主張することであり、ジャンは体の不調を隠しつつ仲間たちと過ごすこと、ヴィンセントは恋愛という冒険に踏み出すこと、アレックスはフラれても想いを寄せるジャンとよりを戻したい、セドリックは家族とも仲間たちともうまくやっていきたい……と、それぞれが悩みを抱えながらも、ゴールに向かってユーモアで乗り越えていく。前述したように、“たとえ現実が厳しくともユーモアが勝利する”が根底のテーマである本作は、日々を明るく生きるシャイニー・シュリンプスを通してユーモアの力を教えてくれる。
「僕は撮影現場でめったに笑わないんだが、この作品ではよく笑ったよ。どの役者もノリがよくて、皮肉っぽいユーモアもあって。みんなに一体感を持たせる何かが、この映画には確かにあった」と主人公・マチアス役のニコラ・ゴブが語っているように、撮影現場は常に笑いで包まれていた。キャストたちが過酷な撮影も笑いで乗り越え、〈仲間との絆〉を深めていったように、偏見だらけだった主人公もまた、メンバーとの旅を通してかけがえのない友情を築き上げていく。
さらに、彼は競泳の世界チャンピオンを目指し、娘との関係を犠牲にしてまでもストイックに生きてきたが、メンバーとの出会いによって人生を豊かにする一番大切なことに気づかされ、最後には娘との関係を取り戻す。つまり、主人公にとってシャイニー・シュリンプスとの出会いは、ル・ギャロ監督と同様に、人生観が変わる出来事だったのだ。
“他人の意見に煩わされることなく人生を精一杯生き、たとえどんな困難にぶつかっても自分に正直に生きること――。”そういった人生の価値を主張するシャイニー・シュリンプスの根底にあるのは、「積極的に人生を楽しもう」という考え方だ。それは選曲からも見て取れる。クロアチアに向かうバスの道中でメンバーが歌う「BOYS」(1987)は、イタリアの女性シンガー、サブリナ・サレルノのヒットナンバー。グルーヴに身を委ねて夏の恋を楽しもう!という自己の解放を謳ったもので、セクシーで過激なMVがイギリスで初めて検閲を受けた楽曲だ。
また、クライマックスにメンバーがダンスを披露した曲はイギリスの女性ロックボーカリスト、ボニー・タイラーの「Holding Out for a Hero」(1984)。逆境と闘う偉大なヒーローが必要という歌詞に合わせてパフォーマンスをするメンバーたちに感化され、マチアスも自分の心に正直に生きることを選択する。
これらの80's ヒットソングの他にも強烈なインパクトを残すのは、新入りのヴァンサンがジャンと歌った曲で、フランスでミリオンセラーとなったガルーとセリーヌ・ディオンのデュエット曲「Sous Le Vent(風に乗って)」(2000)。殻を破って女装を披露したヴァンサンは、周りの客から白い目で見られようとセリーヌ・ディオンになりきることで、ついにシャイニー・シュリンプスの一員になることができたのだ。
勝ち負けにはこだわらず、一緒にいることに楽しみを見出す、ゲイの水球同好会。ここ数年、試合には勝っていないが、練習とコスチューム制作は欠かさない。試合に出場して狙うは、“最優秀雰囲気”賞。
この7年間、実生活でゲイの水球チームに所属し、“ゲイゲームズ”をはじめ、世界各地で行われる様々な試合に出場してきました。奇異で過激と見られようと自分を貫く自由な仲間との旅は、人生観が変わるほどの経験でした。何よりも、辛い現実をユーモアで乗り切る彼らの圧倒的な強さを知ってもらいたいという思いから、この映画は誕生しました。彼らの生き様の素晴らしさは、多くの人々と分かち合えると思っています。
セドリック・ル・ギャロ(監督)
初めて会った時、セドリック・ル・ギャロは“シャイニー・シュリンプス”のとてつもなく面白い話を聞かせてくれた。冒険だけじゃなく、クレイジーで風変わりなこの話に、僕はすぐに夢中になった。スポーツ自体よりもパーティが好きなゲイの水球チームだって?それはぜひとも映画にしなきゃ――そう感じた。
マキシム・ゴヴァール(監督)